» 倭建命の熊襲征伐「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

古事記

古事記

古事記は存在する日本最古の歴史書。
上巻は日本神話、中巻は神武天皇から
応神天皇までの記事、下巻は仁徳天皇
から推古天皇までの記事が収られます。

倭建命の熊襲征伐「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

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兄比売・弟比売の一件以来、流石に気まずくなったのか、大碓命は朝と夕方の食事の席に姿を現さなくなってしまった。そこで天皇は、己の御子で、また大碓命の弟でもある小碓命(おうすのみこと)を側に呼ぶと、
「そなたの兄は、何故朝と夕の御食の席に姿を現さないのか。そなた、兄のもとに行って、ねんごろに教え諭してやりなさい」
と、まだ幼さの残る少年である御子に言い聞かせた。

それから五日経ったが、未だに大碓命は食事の席に姿を現さない。
不審に思った天皇は、
「そなた、まだ兄を諭していないのか」
と小碓命に問うた。すると、
「とうの昔にねんごろにいたしましたよ」
との返答が返ってくる。
「どのようにして教え諭したのだ?」
「夜明けに、兄が厠へ入ったのを待ち伏せて、出てきた所を捕まえて掴みつぶし、手足を引きちぎって薦(こも)に包んで投げ捨てておきました」
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涼しい顔で言ってのける小碓命に、天皇は戦慄した。
実の兄にこのような仕打ちをして平然としているとは、我が子ながらなんと恐ろしい気質の持ち主であろう。
小碓命に対して恐れを抱いた天皇は、
「西の方に熊襲建(くまそたける)と呼ばれる兄弟がいて、朝廷に従わず歯向かっていると聞く。そなた、西へ行って兄弟どもを打ち取ってまいれ」
と言って、小碓命を己の身から遠ざけようとした。
その命令を聞いた小碓命は、父に疎まれているとは夢にも思わず、日頃持て余している力を存分に発揮できると喜び勇み、叔母の倭比売命(やまとひめのみこと)を訪ねた。
そして、叔母の着ている衣服をお守りとして譲り受け、短刀を懐に忍ばせて西の方へと赴いていったのだった。

長い旅を経て、ようやく熊襲建の館にたどり着いた小碓命は、まず館の周辺の様子を探った。
館の周りには幾人もの護衛がおり、中では大勢の人が忙しく立ち働く気配がする。
話を聞いた所、新築の宴の準備をしているため忙しいとのことであった。
そこで小碓命は、館の周囲に潜み、機が訪れるのを待ちながら計画を練った。

やがて宴の日がやってきた。
小碓命はこの時とばかりに持っていた叔母の服を身に着けると、結っていた少年の髪型を解き、少女の髪型に梳(くしけず)った。
こうして、どこからどう見ても麗しい乙女の姿となって、小碓命は宴に向かう少女たちに紛れ込んで館への潜入を果たしたのである。

いよいよ宴が始まると、熊襲建兄弟は麗しい姿の乙女が宴の席に座っているのを見つけた。
その少女が自らの命を狙う者であるとはつゆ知らず、兄弟は小碓命を側へ呼び、二人の間に座らせて酌などさせて過ごした。
宴もたけなわとなったその時である。
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小碓命は懐に隠し持っていた短剣を手に取ると、この時よとばかりに兄の熊襲建の襟首を掴み、あっと言う間もなくその胸に剣を突き立てた。
それを見た弟の熊襲建は驚き慌て、その場から逃げ出した。が、館の端で追いつかれ、背の皮をつかまれ、尻から剣を刺し通されたのだった。

小碓命がその件を振り下ろそうとすると、
「その太刀を下ろさないでくれ。申し上げたきことがある」
と、熊襲建が必死の態で懇願する。
「なんであるか。申してみよ」
「そなたは、一体どこのどなたであるか」
「私は、纒向日代宮(まきむくのひしろのみや)で天下を統べておられる大帯日子淤斯呂和気天皇(おおたらしひこおしろわけすめらみこと)の御子、小碓命。またの名を倭男具那命(やまとおぐなのみこと)である。そなたたち兄弟は天下に仇なす者であるとして、我が父である天皇が私をこの地まで遣わしたのだ」
その言葉を聞いた熊襲建は、
「なんということだ。西の方には私たち兄弟をおいて猛々しい勇者は他におらぬ。だが、倭の国には、こんなにも猛々しく武勇に優れた者がいたのか……。どうか、名を奉りたい。これより先は、この度の功績を讃えて、倭建命(やまとたけるのみこと)と名乗られよ」

言うべきことを終えたとみるや、小碓命は剣を引き、まるでよく熟れた瓜を切るかのように、熊襲建の身体をズタズタに切り刻んで殺してしまった。

この時より、小碓命は名を改め、倭建命と名乗るようになったのである。

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「倭建命の熊襲征伐」登場人物

<小碓命(おうすのみこと)>
言いつけの解釈の違いから兄を殺害。父に疎まれてしまい、西の熊襲を征伐するように言いつけられる。

<熊襲建(くまそたける)>
西方に住む、天皇にまつろわない熊襲の兄弟。最近館を新築したらしく、宴の準備に忙しい。

<大帯日子淤斯呂和気天皇(おおたらしひこおしろわけすめらみこと)>
景行天皇。息子である小碓命の力を恐れ、我が身から遠ざけるために西征を言いつける。

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