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八郎太郎伝説 -辰子の生い立ち-「東北地方民話」

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八郎太郎が八郎潟で暮らしていた頃、出羽国・西木村(現在の秋田県仙北市)の神成沢には三之丞という家があり、辰子という娘が母親と共に暮らしていました。
辰子はそれは美しい娘で、親切で皆から慕われる人気者でした。しかし、自分の姿を実際に意識して見た事は無く、自分の美貌を自覚していませんでした。

ある日、辰子が川辺へやってくると水面に、見た事の無いとても美しい女性の姿ありました。それは水鏡に映った辰子の姿。
自分の姿を初めてはっきりと見た辰子は、しばらく自分の姿とは分からず、そしてその美しい出で立ちに驚きました。
ふと顔をあげて周りを見ると、しわだらけでくたびれた顔をした年寄りばかり。
「おらも年どごとったば、いずれはああなっちまうんだが。しわくちゃで、髪も真っ白さなって、腰も曲がって…。ずっと今のまんま、皆がべっぴんね、めんけね(可愛いね)と言ってけれる、このまんまでいで。あんなになっちまうんだば、年なんで取りだぐね!!」
辰子の思いは尋常ではなく、その願望に心が囚われ、山の中腹にある大蔵観音に百度参りをしました。

満願の夜、百段目の階段で疲れ果てて眠ってしまうと夢枕に観音様が立ち、辰子に語りかけてきました。
「お前の願いは人として叶うものではありません。」
「観音様、若いまんまでいられんだば、おら人でなくてもええ。」
「…そうですか。そこまで言うのであれば叶えましょう。ここから北の方に清らかな水が湧き出る泉があります。そこの水を飲みなさい。」
そう告げて、観音様はすーっと姿を消しました。

翌日、辰子は友達と薬師峠の北の方に山菜を取りにでかけました。本当の目的は、泉を探す為です。辰子は一人山の奥へと進み、そこで清水がこんこんと湧き出る泉を見つけました。
辰子は急いで水を手にすくい、夢中になって飲みました。
すると間もなくして喉の奥が熱くなりました。今水を飲んだというのに喉が渇き、いつまでもそれが治まらないのでひたすら水を飲み続けました。

八郎太郎伝説 -辰子の生い立ち-
気がつくと手足は伸び、辰子はおそろしい龍の姿になっておりました。
「キャアアアアア!!!」
驚きのあまりに出た鋭い悲鳴が空に響き、雨雲を呼び、滝のような雨が降り注ぎました。
雨が上がった頃には、そこには大きな湖、今の田沢湖ができ、辰子は湖の主として生きるのだと悟りました。

何日か経った晩、辰子の母がたいまつを手に取り湖にやってきました。
山から戻ってこない娘を心配した母親は、毎日山へ入り探し続けていたのです。
母は娘の名を夢中で叫び続けました。
「辰子ー!辰子やあー!」
自分の名を呼ばれた辰子は、湖の底から水面へと顔を出しました。
急に水面が波立ち恐ろしい龍が現れたので、母は腰を抜かしてしまいましたが、負けじと声を張り上げて、龍に問いました。
「あ、あんた辰子でねべ!辰子ばどこさやったば!」
まさか目の前にいる龍が辰子であるとは、母は知る由もありません。
この姿でいても、信じてはくれないだろうと考えた辰子は、人間の姿に戻って母の前に立ちました。
「おが(お母さん)、ごめんな。いつまでも若くいでして、観音様さ願掛けして、こんた龍の姿になっちまった…。もう、おがどは暮らしていげね。んだども、この湖どご魚でいっぱいにすっがら。その魚食って、長生きしてけれ。」
母は悲しさのあまり、地べたに崩れ落ち、松明を湖へ落としてしまいました。
すると松明は水の中に沈むのと同時に、尾ひれがつき、クニマスへと変化して泳ぎだしました。
やがて湖の底へ、鱗を輝かせながら静かに消えていきました。

こうして辰子は田沢湖に残り、以後母はこの湖でとったクニマスを売って生活したといいます。

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