» 因幡の白兎「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

古事記

古事記

古事記は存在する日本最古の歴史書。
上巻は日本神話、中巻は神武天皇から
応神天皇までの記事、下巻は仁徳天皇
から推古天皇までの記事が収られます。

因幡の白兎「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

  • 登場人物
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
まだ評価されていません。

大国主神(オホクニヌシ)には様々な名がありますが、名は神の性質を表します。

ここからは、彼がまだ大穴牟遅神(オホナムジ)<貴い大地の主>と呼ばれ、大国主神<大いなる国の神>として一人前になるまでのお話をいたしましょう。

大穴牟遅神は心優しい若者でした。彼の兄弟には八十神(ヤソガミ。大勢の神々の意)がいましたが、皆そろって国は大穴牟遅神に譲ってしまった。というのも、八十神にはおのおの稲葉の八上比賣(ヤガミヒメ)を娶りたいという思いがあったからでした。

さて、八十神は八上比売を訪ねて稲葉の地を目指す旅に出た。そして大穴牟遅神を、賤しい袋担ぎの従者として連れて行ったのです。

気多の岬に通りかかった時、一行の前になんと赤裸の兎が倒れていました。八十神は面白く思って「海水で体を洗い、風に当たって高い山の頂に寝ているとよいぞ」と兎に教えました。兎は苦しみから逃れたい一心でその通りにしたところ、海水が傷口に沁み、海水が乾くにつれて皮膚に悉くひびが入って全身が引き裂かれてしまいました。ますます痛み苦しんで泣いてると、一行の最後に大穴牟遅神が通りかかりました。その痛ましい姿を見た大穴牟遅神はかわいそうに思って、思わず哀れな兎に声を掛けました。

稲葉の素兎

「どうしておまえは泣いているの」

「私は隠岐の島からこの気多の岬に渡ろうとしたのです。しかし渡る手立てがありませんでしたので、海の和邇(ワニ。出雲方言でサメのこと。語義不詳)を騙しました。『お前と私の一族、どちらが多いか比べてみよう。おまえの一族を全員集めて、この島から気多の岬まで一列に並べ。私がお前たちの上を踏んで数えるから。そうしたらどちらが多いか分かるだろう。』と言ったのです。和邇が騙されて並ぶと、私はその上を数えながら踏んでいって、まさに気多の地に下りんとする時、つい『お前たちは騙されたのだ。ご苦労だったな。』と言い――終わるや否や、一番前にいた和邇が私を捕らえて私の皮を剥ぎ、私は赤裸にされたのです。こういうことがあって泣き愁いていると、先に来た八十神の命が『海水を浴びて風に吹かれて寝転がっていろ』と教えてくださったので、その通りにしたらこの身はこのように悉く傷だらけになってしまいました」

「なんて痛々しい……。たいそう辛い思いをしているだろう。今すぐに河口に行って、淡水でもって体を洗い、蒲の花を取って敷き散らし、その上に寝転んで花粉をまといなさい。そうすれば、あなたの皮膚は必ず元通りになる」と優しくお教えになりました。蒲の花粉は蒲黄(ほおう)という生薬で、止血作用があります。大穴牟遅神の言う通りにすると、兎の皮膚は元の通りになりました。実はこの兎こそ、稲葉の素兎でありました。今では兎神と言われています。兎神は大穴牟遅神に言いました。

「あの八十神は八上比賣を手に入れることはできないでしょう。袋を背負って賤しい仕事をしているけれども、あなた様こそが八上比賣を手に入れることができる」

この出来事をきっかけにして、大穴牟遅神に数々の試練が降りかかります。

兎神の予言通り、八上比賣は八十神の求婚に対し「わたくしはあなた方の言葉は聞きません。大穴牟遅神の嫁となります」と言ったものですから、八十神は怒りに震え、大穴牟遅神を殺してやろうと共に謀ったのです。

まず、八十神は伯伎国の手間の山のふもとに大穴牟遅神を連れて行きました。「赤い猪がこの山にいる。我々が猪を追い詰めるから、おまえはその猪を待ち捕れ。もし捕らえられなかったら必ずお前を殺してやる」と言って、猪に似た巨石を火で焼いて、転がり落としました。燃えさかる巨石を受け止めた大穴牟遅神は、巨石に焼き潰されて死んでしまいました。

殺された我が子を見た御母の命は、声を上げてそれはそれは激しく泣き悲しみました。すぐさま泣きながら天に参上して、大いなる神産巣日之命(カミムスヒノミコト)に助けを求めたところ、神産巣日之命はキサガヒヒメと蛤貝比賣(ウムギヒメ)という赤貝と蛤の神様をお遣わしになりました。岩に張り付いた大穴牟遅神の身体をキサガヒメが削り取り、蛤貝比賣が集めて母の乳を塗ると、大穴牟遅神は立派な青年になって生き生きと歩き回られました。

その様子を見た八十神は業を煮やし、再び大穴牟遅神を騙して山に入り、大樹を切り伏せ楔を割れ目に打ち立てて、その隙間に大穴牟遅神を入れるや否や、楔を離して挟み殺しました。これを聞いた御母の命は、またもやたいそう泣いて、今度は自ら大穴牟遅神を探し回って見つけて、木を折って取り出して復活させてその子に言いました。「ここにいたらおまえは八十神に滅ぼされてしまう」と。母は子を木の国の大屋毘古神(オホヤビコ)のもとへ、八十神を避けて逃がしました。

しかし八十神は執念深く大穴牟遅神を探し回り、木の国まで行き着きます。八十神は皆々恐ろしい形相で弓に矢をつがえ、大穴牟遅神を出せと口々に怒鳴る。大地に響く恐ろしい怒号の中で、大屋毘古神は大穴牟遅神をこっそり木の股から逃がしながら、こう言ったのです。
「須佐之男(スサノヲ)様のおられる根の堅す国に参上しなさい。必ずやその大神がよきに取り計らってくれるでしょう」

<<八俣の大蛇 || 根の国訪問>>


お話の評価

ページトップ