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近代の物語

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夜中のお弔い「山形県民話」

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むかしむかし、山形県鶴岡の城下町に一人の侍がおりました。
ある夜、男は寄合の帰り道を 提灯のあかりを頼りに歩いていました。
自分の屋敷の近くまで来ると、なにやら向こうから行列がやってくるのが見えます。
それは、白装束の弔い行列でした。
行列に並ぶ人はみんな俯き、話し声ひとつ立てず、ただ足音だけが夜道に響いていました。
夜中のお弔い
こんな夜更けに弔いとは珍しい。
武士の弔いのようでしたが、藩中で不幸があったとは聞いていません。

「失礼。これはなんの弔いかな」

男が話しかけると、行列を歩く人は武士の名前を答えました。
それを聞いた男は呆然としていましたが、話しかけた相手は軽く会釈をすると またひたひたと歩き始めました。

「今の名前は……、拙者の弔いじゃないか」

男が我に返って振り向くと、お弔いの行列は立ち止まって こちらをじいっと見つめていました。
男は思わず背筋が凍り、提灯を放って駆け出しました。

息を切らして自分の屋敷の前まで来ると、
門の前には、つい今しがたお弔いの送り火を焚いた跡が残っていました。
男は急いで中に飛び入り、暗い屋敷の中を手探りに、家の者の名を叫んでまわりました。
しかし、返事はありません。

「これは一体どうした事だ」

男はすっかり途方に暮れてしまいました。
家を出て当てもなく彷徨い歩き、気がつくと城下のお堀端まで来ていました。
男がぼんやりと堀を眺めていると、聞き慣れた声が聞こえてきました。

「こんな時間にどうなさったんだ」

それは親しい友人の声でした。
ようやく話のできる者に出会えたと、男はすかさず駆け寄って今までのいきさつを話しました。
そして怪訝そうな顔をしている友人を連れて、もう一度自分の屋敷まで戻ってみることにしました。

二人が屋敷の前まで来ると、部屋には明かりが灯っていました。
男がおそるおそる中に入ると、屋敷の者は何事もなかったように迎えました。
男が皆に訪ねましたが、家の者はずっと屋敷にいたとのことです。
しかたがないので、男の思い違いだったということで、友人は男を宥めて帰ることにしました。

「彼が嘘を付いているとも思えぬのだが…」

ですがそれを確かめるすべもなく、うやむやのまま幾日か過ぎてゆきました。

*

そしてある日、友人のもとに男が亡くなったという知らせが入りました。
男は、夜中に押し入った賊に斬り殺されたとのことでした。

お弔いの行列を作り棺桶を墓場に運ぶ間、友人は
男が生前に語っていたお弔いの行列について考えていました。

「失礼。これはなんの弔いかな」

すぐ隣に歩いている下男が声をかけられ、それに応えるのが耳に入りました。

「いま尋ねてきたのは誰だ!」
「へぇ、そこのお侍様でございますが」

友人はすぐに後ろを振り返りましたが、人の姿はありません。

「確かに今そこにいたのですが……」

友人と下男の様子に気づいた周囲の人達が、何事かと立ち止まり振り返ります。
友人は、以前に男がしていた話を思い出し、

「彼が見たというのはこの行列のことだったのか」

小さな声でぽつりと呟きました。
男は、まだ生きている間に自分のお弔いを見てしまったのです。

山形県鶴岡であったというお話。

※参考文献『出羽の民話』(1958年初版)未来社


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