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近代の物語

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夜泣きの灯り「長野県民話」

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信濃の国の満願寺というお寺に、ある貧しい身形の浪人とその子供が訪ねて来ました。浪人は我が子の手を引きながら言います。
「どうぞこの子をこの寺に置き、立派な僧にして下さい。」
和尚は新しい小僧が来た事をとても喜びました。それというのも、このお寺には丑三つ時に必ず山の中に有る御堂に灯りを燈すという決まりがあり、それを前に居た小僧が怖がり逃げ出してしまった処だったからです。
和尚は父親の去った後を見つめる子供を招くと、直に頭を綺麗に剃り上げてやりました。

次の日から早速、子供は夜に成ると一人で御堂の灯りを燈しに行く事に成りました。
子供は不安気に辺りを見渡しながら進みます。それというのも、お堂までの道はお寺の裏山の大変高い処に有り、其処に行く迄には幾つもの岩穴を潜って行かなければ成らなかったのです。
木が高く生い茂り昼間でさえも薄暗い山の中です。道という道も無く、袖を枝に引っ掛けては何度も転びそうに成りながら進みます。又、岩穴の中では人の気配に驚いた蝙蝠が不気味な羽音を響かせて暗闇の中飛び回っていました。 
子供は毎晩和尚に言われる儘にお堂まで灯を燈しに行って居りましたが、鬱蒼とした夜の、その呑まれそうな闇が恐ろしく、一人震えては涙を流しておりました。
夜泣きの灯り

そうしてある日の晩、子供はとうとう余りの心細さに途中で灯りを燈さずに山を下りて来てしまいました。

丑三つ時になっても山の上に小さな明かりは見えません。その事に気がつくと和尚は直に子供を呼びだして何度も木の棒でその小さい体を打ち据えました。
子供は涙を流して堪えておりましたが、ふと和尚が気がつくと、打ち所が悪かったのか子供は既に息絶えておりました。

和尚は人目に付かぬ様、御堂の下に子供の死体を埋めてしまいます。
人に子供の事を聞かれても「又逃げだしてしまいました。」と知らぬ顔をして過ごしました。

ところが、その晩から奇妙な声が聞こえように成ったのです。

それは寺の裏山から響く子供の啜り泣く様な声でした。それが大変静かに、悲しい声で泣くものですから、ある晩寺男やお坊様達が居てもたっても居られずに成りお寺の裏山へと入って行きました。
そうして山の頂上、御堂の辺りに小さな灯りを見つけます。不思議に思い御堂まで足を進めると、そこには今は誰も燈しに来ない筈の灯りがチロチロと、辺りの闇に浮かぶようにして小さく燃えておりました。

次の朝その話を聞いた和尚は恐ろしく成り、慌てて殺した子供の供養をしました。しかし、啜り泣く声は止まず、又、丑三つ時になるとお堂の灯りも独りでにふわりと燈り続けました。

翌年の事です。満願寺のある麓の村に一人の侍が訪ねてきました。
侍は満願寺に子供を預けたあの時の浪人でした。漸く愛しい子供に会えるという事で急いでは居りましたが、もう日も暮れようとしていたのでその日は近くの百姓の家に一晩泊めてもらう事にしました。

そうしてその晩の丑三つ時、侍は不思議な声に目を醒まします。
視界を巡らすと、枕元に人影が立っておりました。よくよく目を凝らすと頭を剃られた可愛い我が子が、何が悲しい事があるのか一心に目元を拭いながらしくしくと泣おります。
侍は驚いて子供の名前を呼ぼうとしましたが、金縛りに合い声も掛けられぬ儘に夜が明けました。

明くる朝侍は奇妙な話を聞きます。
「あのお寺へ行きますと、最近は昼間でもすすり泣く声が聞こえてきます。それがまるで誰かを恋しがるような憐れな声で…。」
侍はその話を聞くや否や刀を掴むと、御堂のある裏山を目指して走って行きました。

そうして、二度と山を降りては来ませんでした。

その夜からは啜り泣きの声は消え、お堂の灯りは燈らずに、変わりに真っ暗なお寺の裏山で三つの火の玉が辺りを漂い出るように成ったという事です。


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