» 女人の悪鬼に点されて食噉はれし縁「日本霊異記」

古代の物語

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女人の悪鬼に点されて食噉はれし縁「日本霊異記」

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聖武天皇の御代、人々は口々に謡ったという。

汝をぞ嫁に欲しと誰、庵知の此方の万の子
南无南无や、仙酒も石も、持ちすすり、法申し、山の知識、余しに余しに

ナレヲゾヨメニ ホシトタレ アムチノコムチノヨロズノコ
ナムナムヤ ヒジリビト サカモ サカモ モチススリ ノリモウシ ヤマノチシキ
アマシニ アマシニ……

*****

大和国十市郡庵知(あむち)の村の東に、裕福な家がありました。
姓を鏡作造(かがみつくりのみやつこ)。その一人娘に万(よろず)の子という、見目麗しい女がおりました。未だ嫁がず、男を知らない女でございます。
家柄の良い男が求婚したが、断り続けて年月は過ぎていきました。

ところが、ある男が結婚を申し込み、幾度と無く様々な品物を送って寄越しました。
色鮮やかな絹布が車三台。娘はそれを見て心を奪われ、心を許し、男の言葉に従って白い手を靡かせ男を閨に招き入れました。

夜陰の中で男と女は体を重ね合わせた。

「痛や」「痛や」「痛や」

娘の叫び声に両親は顔を見合わせたが、「まだ慣れていないから痛いのだろう」と初々しい娘の様子に安堵してそっと眠りに戻りました。

明くる日、なかなか夫婦が起きて来ないので、母が戸を叩いて娘の名を呼びました。
しかし、返事が無い。
不審に思って戸を開いてみると――
娘は頭(かしら)と一本の指だけを残し、その他の部分は皆跡形無く喰われてしまっていた。

女人の悪鬼に点されて食噉はれし縁

両親は恐れ慄き、嘆き悲しみ、我に返って男が婚姻の印(しるし)に贈って寄越した色鮮やかな絹を見れば、たちまち姿変わって獣の骨になり、三台の車も呉茱萸(からはじかみ)の木に成ってしまった。

方々の人がこの話を聞き集まってきましたが、まさかと半信半疑で娘を見て、不思議がらない人はいませんでした。
両親は絢爛な韓箱に娘の頭を納め、初七日の朝、仏前に置いて斎食をしました。

そこでふと、少し前に流行っていた、あの不吉な調べが両親の頭の隅を掠めました。
誰が謡い出したのか、誰が謡ったのかはわかりません。謡い重なる声だけが、木霊のように頭の中に響きます。――ああ、あの唄は、この災禍の前兆だったのだろうか。

ある者は神の戯れだと言い、またある者は鬼の仕業だと言いました。
しかしよくよく考えてみますと、あの男と女は前の世の仇敵(あだ)だったのでございましょう。
これもまた、不可思議な事でございます。


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