» 泉小太郎伝説「長野県民話」

近代の物語

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泉小太郎伝説「長野県民話」

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 むかしむかし、信州の真ん中にある松本のあたりは、大変大きな湖でした。
そしてその湖の東の方の里には、泉小太郎という子供が住んでいたのです。

小太郎には父親も母親もなく、洞じいと呼ばれる老人と二人きりで暮らしていました。
小太郎は力あるばかりでなく、知恵も勇気も持った優しい少年として成長しましたが、やがて
「おらのおっかさんはどんな人だろう……何としても会いてえ」
と考えるようになりました。

やがて十二の春を向かえたある晩のこと、洞じいが小太郎を呼んで話を始めました。
「小太郎や、お前のおっかさんの話をしてやろう。
驚かずに聞いてくれ」

 それは、むかし洞じいが釣りに出かけたときのことでした。
大きな湖のほとりに、ぽつんと一人で赤ん坊が泣きじゃくっているのを見つけました。
「ありゃ、いったいどうしてこんなところに」

抱き上げて不思議に思っていると、湖の上からそれはそれは大きな竜が洞じいを見下ろして言いました。
「その子は私、犀龍と高梨の白竜王の息子、名は泉小太郎といいます。
私はわけあって竜の姿をしておりますが、小太郎が十二才になったら犀乗沢の淵まで迎えに参ります。
どうかそれまで小太郎を育てて下さい」
そうして竜は再び湖の中へと沈んでしまいました。

 洞じいの話を聞き終わると、小太郎はしばし考えた末、洞じいにお礼と別れを告げてから湖へと向かいました。
やがて湖に辿り着いた小太郎は、水面に向かって叫びました。
「おっかさん、おっかさん!
おらが息子の泉小太郎だ、出てきてくれー!」

すると、突然湖が大きく揺れて、きらめく鱗見えたと思うと、そこには巨大な竜があらわれていました。
竜は小太郎はを見ると涙を流しました。

「小太郎、よく来てくれました。一日でもお前のことを忘れたことはありませんでしたよ。
私は諏訪大明神の化身、この湖を切り開いて土地を作るためにつかわされたのです。
お前を人の世で育てさせたのもそのため、どうか私に力を貸しておくれ」
小太郎は大きくうなずきながら、
「おっかさん、よくわかった。おら、手伝うよ」
と、承知して、さっそく母竜の背中にまたがりました。
小泉小太郎伝説
小太郎を乗せた母竜は、勢いよく湖の中に潜っていきます。
そして、ひとつの岩に見当をつけると、あらん限りの力をこめて体ごとぶつかっていったのです。
母竜は全身血まみれになりながら、何度も何度も岩に体当たりを続けます。

小太郎は母の背から、
「岩が動いた。もうひと息だ」
と、懸命に母竜をはげましながらかじを取ります。

やがて初めはびくともしなかった岩はだんだんひび割れ、ぐらつき、とうとう地響きをたてて崩れ堕ちると、湖の水が一気に流れ出ました。
広大な湖はあっという間に姿を消し、あとには広い広い土地が現れたのです。
やがて一帯は信州でも屈指の豊かな田園地帯となりました。
けれども、小太郎と竜がその後どうなったかは、誰も知りません。


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