» 神功皇后の神がかり「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

古事記

古事記

古事記は存在する日本最古の歴史書。
上巻は日本神話、中巻は神武天皇から
応神天皇までの記事、下巻は仁徳天皇
から推古天皇までの記事が収られます。

神功皇后の神がかり「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」

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仲哀天皇が筑紫を巡幸した折、その皇后・息長帯日売(おきながたらしひめ)が神がかりになられた。
それは丁度、天皇が香椎宮におられて、熊襲国(くまそのくに)を討とうとなされているときのことであった。

神がかりとは、神霊が巫女の身体に乗り移ることをいう。

天皇が琴を弾き、沙庭(さにわ)に大臣(おおおみ)の建内宿禰(たけしうちのすくね)が控えて神託を乞い求めた。
すると、皇后の身体に神霊が降り、神託を授けられた。

「西の方に国がある。その国は金や銀をはじめとし、目の眩むような珍しい宝物で溢れている。吾が、その国を服従させてやろう」

しかし、天皇が高いところへ登って西の方を眺めてみても、国があるようには見えない。
そこにはただ、大海が広がるばかりであった。

(でたらめなことを言う神だ)

そう思って、天皇は琴を押しやり、一音も弾かずにただ黙っていた。

すると、その態度に激怒した神は、皇后の口を借り、皇后とは異なる低い声で怨嗟を吐きつけた。
「無礼な奴め。そもそも、この天下(あめのした)はお前のようなものが統治すべき国ではない。――お前は、黄泉国へと一道に向かえ!」
神功皇后
その言葉を聞いた大臣は、慌てて天皇へと申し上げた。
「畏れ多いことです。我が大王よ、もう一度、その琴をお弾き下さい」

大臣に諌められ、しぶしぶながらも、天皇は再び琴を弾き始めた。

――ポロン……ポロ……ン……。

哀切な調べが、神聖な空間を震わせ、響き渡る。しかし、しばらくして、その琴の音が唐突に途絶えた。
「――大王っ!?」

異変に気づいた大臣は、すぐさま火を点した。
ゆらゆらと、血のように赤い灯火の下、彼の目に晒されたのは変わり果てた主君の姿であった。

大臣は驚き、恐れ、天皇の御遺体を殯宮(あらきのみや)へと移させた。
そして、国中から大祓(おおはらえ)のための幣帛(みてぐら)を集めさせた。

生剥(いけはぎ)、逆剥(さかはぎ)、畦離(あはなち)、溝埋(みぞうめ)、屎戸(くそへ)、上通下通婚(おやこたわけ)、馬婚(うまたわけ)、牛婚(うしたわけ)、鶏結(とりたわけ)、犬婚(いぬたわけ)など罪の類いを様々求めて、国規模の立派な大祓の儀礼を行った。改めて神降ろしの場で神託を乞うも、答えは先日と同様で、

「すべてこの国は、皇后の腹の中にいる御子が治めるべきである」
と、諭された。

「恐れ入りました。我が大神にお尋ねします。皇后さまのお腹の中におられるのは、男御子でしょうか、それとも女御子でしょうか」
その問いかけに、神は答えた。――男児である、と。

最後に、大臣は神名を尋ねた。
「今、こうして我々にお言葉を伝えて下さる大神の名を伺いたく存じます」
「この神託は、天照大神の御心によるものだ。また、我々は底筒男(ソコツツノヲ)、中筒男(ナカツツノヲ)、上筒男(ウハツツノヲ)の三柱である」

この神々は、天照同様、伊耶那岐命の禊の際に生まれた住吉三神である。
航海の神として住吉神社に祀られている。

「今、本当に西の国を求めようと思うのならば、天津神や国津神、また山の神と河海の諸々の神たちへ、幣帛を奉り、我らの神霊を船の上に奉り、真木を焼いた灰を瓢に入れ、また箸と柏葉を合わせて作った皿をたくさん用意せよ。それらをすべて大海に散らして、渡るが良い」

このように仰せになると、三神は皇后の内より去っていった。

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「神功皇后の神がかり」登場人物

<仲哀天皇>
第十四代天皇。神託を信じなかったために、祟り殺される。

神功皇后
仲哀天皇の皇后。筑紫巡幸の折に神がかりし、神託を告げる。

<建内宿禰>
時の大臣。古事記では、成務天皇から仁徳天皇の段に名が見られる伝説的人物。

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