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近代の物語

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耳なし芳一「臥遊奇談」

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むかしむかし、長州下関に阿弥陀寺というお寺がありました。
そのお寺には、芳一という琵琶法師がいました。
芳一は幼い頃から目が不自由だったので、琵琶の弾き語りを仕込まれて育ち、まだ若いというのに師匠である和尚さんを凌ぐ琵琶の腕前でした。
中でも芳一は平家物語を語るのが得意で、とりわけ壇ノ浦の合戦のくだりのところでは、その真にせまった語り口に、誰一人、涙をさそわれない者はいなかった。

ある蒸し暑い夏の夜の事です。和尚さんが法事で出かけてしまったので、芳一一人で琵琶の稽古をしていると庭の草がサワサワと波のようにゆれ誰かが芳一の前に立っています。
「芳一・・・芳一!ある身分の高い方がお前の奏でる平家物語を聞きたいと願われておるついてまいれ」
芳一は言われるままにその声のする方に付いて行きました。

歩く度、カシャン・・・カシャン・・・っと音を立てているので芳一は目は見えませんがこの人は武者だとわかりました。
芳一は大門をくぐり広い庭を通り館の中に通されました。

「芳一・・・よく来られましたね・・・そなたの奏でる壇ノ浦の合戦をお聞かせください。」
「承知致しました。」

芳一は返事をすると早速琵琶を鳴らし語り始めました。
船に波があたる音
弓鳴りの音。
源平の兵士たちのおたけびや叫び声の音。
敗れた武者が、海に落ちる音。
大広間は、たちまちのうちに壇ノ浦の合戦場になったかのようでした。

やがて、平家が敗れ一門と安徳天皇が海に身を投じるくだりになると大勢の人がいるのかむせび泣く声が周囲から聞こえてきた。

「今宵より6夜間、弾き語りをして聞かせてほしい。またこの事は他言無用に願いたい」
女性の声らしき声で告げられました。

次の夜も芳一は武者に導かれるまま館に向かいました。
寺では和尚さんが芳一の帰りを待ち芳一に何があったのか問い詰めました。

しかし、芳一は女との約束を守り決して夜の事を話しませんでした。
そこで和尚さんは、夜を待ちこっそりと芳一の後を寺男に尾行させました

ザアザアと雨が降りしきる中、芳一は寺を出ていきます。
やがて、芳一は足を止めて琵琶を奏で始めました。

芳一が足を止めた場所は墓地の中でした。
そして、稲光で墓石が浮かび上がるとそれは安徳天皇の墓の前でした。
芳一の周りには無数の人魂が取り囲んでいます。

そのことを聞いた和尚さんは平家の亡霊に取り憑かれてるに違いないと悟りました。
その夜法事で寺を空けなければならない和尚さんは芳一の体に魔除けの経文をびっしりと書き、書き終えると芳一に言いました。

「芳一、お前の素晴らしい琵琶は無念の中で海に沈んだ平家の怨霊を呼んでしまったようだ。芳一よ今宵は誰が呼んでも返事を返事をしてはならぬ。もし、声を出せば今宵こそお前は取り殺されてしまうだろう」

そういうと和尚さんは法事に出かけてしまいました。
夜になるといつものように武者が芳一を呼びにきました。
耳なし芳一
「芳一・・・芳一!迎えに参ったぞ・・・どこだ芳一」
カシャン・・・カシャン・・・と寺の中に鎧の音が響きます。

武者は、琵琶と空中に浮かぶ耳を2つ見つけると叫びました
「芳一!なるほど、和尚の差金か・・・ならば、仕方あるまい・・・ここに来た証としてお前の耳を持ち帰る」

バリっという音が寺中に響き渡ります。
耳をもぎっとった武者は帰って行きました。

朝になり寺に戻った和尚さんはたいそう心配そうに芳一のいる部屋に入って参りました。
「芳一、無事であったか」

座禅を組む芳一を見ると耳がなく周りは大量の血が流れています。
「済まないことをした・・・耳に経文を書くことを忘れておったとは気づかなかった」

その後、芳一は良い医者に手当をしてもらい傷を癒やしました。
それ以来亡霊は芳一の前に現れなかったと言う事です。


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