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中世の物語

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舌切り雀「埼玉県民話」

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むかしむかしあるところに、心の優しいおじいさんと欲の深いおばあさんが住んでおりました。
ある日、おじいさんは怪我をした雀の子を拾いました。羽根を痛めた姿が可哀想で、おじいさんは家にスズメを連れ帰り、手当てをしてやりました。

――ちゅん、ちゅん、ちゅん。

手当てをしてくれたおじいさんに、スズメはよく懐きました。愛らしくさえずり、おじいさんもその姿に相好を崩します。
けれど、おばあさんとしてはそれが面白くありません。

そんなある日のことでした。
おじいさんが山へ芝刈りに出掛けている間に、スズメの子は、おばあさんが障子を張り替えるために用意していた糊をすべて平らげてしまいました。
もちろん、おばあさんはカンカンです。

「憎たらしいスズメめ。悪さをしたのは、この舌か!」

怒ったおばあさんは、鋏を手に取り――ジャキン! と、スズメの舌を切ってしまいました。
舌切り雀

舌を切られたスズメは、甲高い悲鳴を上げて飛び去ってしまいました。

さて、家に帰って来たおじいさんは、スズメの姿が見えないのを不安に思っておばあさんに尋ねました。

「ばあさんや、スズメの子が何処へ行ったか知らないかい」
「あのスズメなら、舌を切って追い出してやったよ!」

それを聞いたおじいさんは、スズメの子を探して山の中を歩き回りました。
すると、藪の奥にスズメのお宿を見つけました。

「おじいさん、ようこそおいで下さいました」

そう言って、ちょこんとお辞儀をするのは、おじいさんが可愛がり、そしておばあさんに舌を切られてしまったあのスズメでした。
スズメは、おばあさんの糊を食べてしまったことを謝りました。
そして、おじいさんが介抱してくれたこと、心配してここまで探しに来てくれたことに、お礼を言いました。

「おじいさん、どうか今日は楽しんで行って下さいね」

スズメたちは、美味しいごちそうと、可愛らしい歌と踊りでおじいさんをもてなしました。
おじいさんは舌鼓を鳴らし、スズメたちのさえずりに合わせて手を叩き、一緒に踊って楽しいひとときを過ごしました。

「おじいさん、お土産です」

帰り際、おじいさんの前に大きさの異なるふたつの葛籠(つづら)が運ばれて来ました。

「大きな葛籠と小さな葛籠、どちらかお好きな方を持って行って下さい」
「おお、ありがとう。儂は年寄りだから、こちらの小さい葛籠をもらうことにしよう」

そう言って、おじいさんは小さな葛籠を背負ってスズメのお宿をあとにしました。

家に帰ると、おじいさんはスズメからもらった葛籠を開けてみました。
すると、中には金銀、珊瑚に宝珠の玉。そして、ずっしりとした小判が葛籠いっぱいに詰まっているではありませんか。

「こりゃあ、すごい。きっと、大きな葛籠にはもっとたくさんの財宝が入っているに違いない!」

それを見たおばあさんは、スズメのお宿へ押しかけました。

「さぁ、あたしにも葛籠をお寄こし!」

美味しいごちそうも、歌も踊りもはね退けて、おばあさんは大きな葛籠だけを奪うように受け取っていきました。
スズメたちは、悲鳴のような声で言いました。

「おばあさん、あばあさん。家に帰るまで、決してふたを開けてはいけませんよ!」

おばあさんは、大きな葛籠を背負い、山を下って行きました。その足取りは、ふらふらです。

(ああ、重たい。……ひひひ、一体どれだけのお宝が入ってるのかねぇ)

ぜぇはぁと息を切らしながらも、おばあさんはほくそ笑みました。
おじいさんがもらってきた小さな葛籠ですら、あんなにたくさんの宝物が詰まっていたのです。背中にずっしりと伝わる重さに、欲にまみれた期待もいっそう膨らみます。
すると、何だか葛籠の中身が気になって気になって、仕方なくなってしまいました。家まで到底、待てそうにありません。

(スズメどもはあんなことを言ってたけど、なぁに、ちょっとだけなら……)

おばあさんは道の途中で葛籠を下ろすと、スズメたちの警告を無視して、そのふたを開けてしまいした。

「ぎゃああーーーーっ!!」

けれど、葛籠に入っていたのは金銀財宝などではありませんでした。
大きな葛籠の中身は、世にも恐ろしい形相の魑魅魍魎、それから気味の悪い虫にトグロを巻いた蛇などなど……。

無慈悲なことをしたり、欲張ったりするものではありませんね。


「舌切り雀」登場人物

<おじいさん>
心の優しいおじいさん。怪我をしたスズメを助ける。

<おばあさん>
欲深く、いじわるなおばあさん。

<スズメ>
おじいさんに助けられたスズメ。おばあさんに舌を切られてしまう。

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