» 雀報恩の事(腰折れ雀)「宇治拾遺物語(舌切り雀原典)」

古代の物語

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雀報恩の事(腰折れ雀)「宇治拾遺物語(舌切り雀原典)」

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むかしむかし、ある春の日のこと。
おばあさんは庭で服についた虫をとっていると、そこへ雀がやってきました。

家にいた子どもたちは一斉に駆け寄ると、雀に石を投げつけました。
石は命中し、雀は腰を折ってしまいました。

「あらまあ、かわいそうに」

雀が羽をばたつかせて逃げ惑うのを、飛んでいるカラスが狙っているようなので おばあさんは急いで雀を拾い上げ、息を吹きかけたり餌を与えたりしました。
夜は小さな桶の中で過ごさせ、朝になれば米を与え、こそげ落とした銅を薬代わりに与えました。

「年寄りが雀なんて飼い始めたぞ」

おばあさんがあまりに甲斐甲斐しく世話を焼くものだから、子どもや孫たちはせせら笑いました。

それから数ヶ月が経ち、おばあさんが手当てしたおかげで雀はようやく歩けるようになりました。
雀は、こうして世話をしてくれたことが嬉しかったようでした。

「ちょっと雀を見てやって下さいね。餌やりもお願いしますよ」
「なんで雀なんて飼っているんだろうね、このばあさんは」

おばあさんはちょっと外へ出かけるだけでもこう言い残すほどなので、子どもや孫たちはまた せせら笑いました。

「そうは言っても、かわいいんだよ」

おばあさんはそれを気にするでもなく、雀の世話を焼くのでした。
そうしているうち、雀もついに飛ぶことが出来るようになりました。

「これでもう、カラスに食べられてしまうことはないだろう」
おばあさんは外に出て、雀を手に載せました。

「飛べるかい。ちゃんと見ているからね」

おばあさんが手を上に押し上げてみると、雀はふらふらしながらも飛び立ち、やがて遠くへ去っていきました。

「長い間、日が暮れては桶に入れ、明けては餌をあげていったけれど、とうとう飛び立っていってしまったね。なんだかまた来てくれそうな気がするよ」

おばあさんが呟くと、それを聞いた人からまた笑われてしまいました。

それからまた二十日ほど経った頃 近くで、雀がしきりに鳴いています。

「今日は雀がよく鳴くね。あの雀が戻ってきたのだろうか」
おばあさんが外に出てみると、やっぱりあの雀が来ていました。
「ああ、わしのことを忘れずに来てくれたんだね。かわいい子だ」

雀はおばあさんの顔を見つめると、口から雫のようなものを落として飛び去っていきました。

「あの子が持ってきてくれたのだから、きっとなにかあるのだろう」
おばあさんがいそいそ拾い上げると、子どもたちは指をさして笑いました。

「こりゃひどい、雀に貰ったものを宝物にしている」
「まあ、ためしに植えてみようじゃないか」

おばあさんはその種を庭に植えてみました。
すると、秋には驚くほどに大きく育ち、とても大きな瓢箪がたくさん実ったので、おばあさんはとても喜びました。
隣町の人たちに食べさせても、まだ取りきれないほどあります。
おばあさんを笑った子どもや孫たちも朝晩食べ続け、村中に配ったりもしました。

その中でも大きな7、8つは、瓢の水筒にでもしようと 家の中に吊るしておきました。

そうしてまた数ヶ月が経った頃 そろそろ中もいい具合だろうと瓢を降ろしました。
口を開けようとすると、なんだか瓢が重たく感じました。

どうもおかしいと思いつつ口を開けると、中には別のものが入っているようでした。
中身を出してみると、なんと白米が入っていました。
大きな器にさらさらと白米が積もっていきます。

「なんて不思議な。きっと雀の仕業だ」

おばあさんは驚き喜んで、その瓢は大切に隠しておきました。
他の瓢も調べてみると、同じように白米が入っていました。
中を少しずつ出すようにすれば、食べきれないほどたくさんあります。

これから、このおばあさんは裕福になり、となり里の人もおどろき、みんなからうらやましがられるようになりました。

さて、このおばあさんの隣には、おなじようにおばあさんが住んでいました。

「同じ年寄りだというのに、隣と違ってこっちは何もしやしない」

隣のおばあさん、子どもからはこのように言われるので 今は裕福になったおばあさんの所へ訪れました。

「最近は一体どうしたんだい。前に飼っていた雀が関係していると聞いたのたけど、もっと詳しく教えてちょうだいよ」
「雀が瓢の種を一つ落としてくれましてね、それを植えてから変わったのですよ」

おばあさんが大雑把に説明しましたが、隣のおばあさんは承知しません。

「なにがあったのか、詳しく教えてちょうだいな。どうかお願いしますよ」

隣のおばあさんが懸命に聞いてくるので、裕福なおばあさんは 隠し立てするようなことでもないかと思い、説明をはじめました。

「実は雀が腰を折られてしまったのを治るまで世話をしたんですけどね、それを恩に感じたのか瓢の種を一つ持ってきたんです。その種を植えてみたら、こうなったんですよ」
「その種、ちょうだい」
瓢の米であれば差し上げてもいいのですが、種はもうないのですよ。ばらばらにするわけにもいきませんし」
「なら、わしもどうにかして腰の折れた雀を見つけて飼ってみよう」

隣のおばあさんは目を皿のようにしてあちこち探して回りましたが、腰の折れた雀などどこにも見当たりません。

それで毎日朝晩、隣のおばあさんが見ていると、家の裏口に散らばる米を食べに雀がやってくることに気づきました。
隣のおばあさんは石を手に取り、当たるだろうかと投げつけてみました。
何回もやるうちに石が命中し、雀は飛べなくなってしまいました。

隣のおばあさんは喜んで、雀に近づくと念入りに打ち折りました。
そして雀を捕まえると、餌や薬を与えて世話をしました。

「1羽だけでもあんな長者になるんだ。数が多ければもっと物持ちになるだろう。隣よりも裕福になれば、子どもたちにも褒められるだろうさ」

隣のおばあさんが更に米を撒いて待っていると、また雀が集まってきました。
そしてまた石をぶつけ、三羽の雀を打ち折りました。

「よし、これで十分だろう」

隣のおばあさんは三羽の雀を桶に入れ、こそげ落とした銅を食べさせました。

こうして数ヶ月が経った頃
隣のおばあさんが世話をするうちに、雀は三羽とも元気になりました。
隣のおばあさんは大喜びで外に出すと、雀たちはみんなふらふらと飛んで行きました。

「ずいぶん寂しくなるね」

でも雀の方は、腰を折られて数ヶ月囚われたことを憎々しく思っていたに違いありません。

それから十日ほど経ち、雀たちが戻って来ました。
隣のおばあさんは喜びました。

「口になにかくわえているかい」

隣のおばあさんが見ると、雀は瓢の種を一つずつ落として飛び去って行きました。

「思ったとおりだ!」

隣のおばあさんは喜び、雀の落とした種を拾って三箇所に植えました。
するすると芽が生え、とても大きな木になりました。

「大したこともできない年寄りだと言われたが、わしは隣の女に勝ったよ」

隣のおばあさんが大笑いして子どもに言うと、子どももそのとおりだと思いました。

とはいえ、実った瓢は数が少なかったので、できるだけ米を多く取ろうと 他の人には食べさせず、自分でも食べないようにしていました。

「隣の裕福なおばあさんは、となり里の人にも食べさせていたし、自分でも食べていたじゃないか。私たちや他の人たちにも食べさせてくれ」
「じゃあ、近所の人たちだけに食べさせて、あとはわしと子どもだけで食べることにしよう」

食べてみると、なんとも形容しがたい苦さでした。
とても苦いキハダのような味に頭がおかしくなり、自分も子どもも近所の人も 食べた人はみんな何かに取り憑かれたようにおかしくなってしまいました。

「なんてものを食べさせるんだ。恐ろしい奴らめ。ほんのちょっとを口に近づけただけで、死にそうな目に遭ったそうじゃないか!」

近所の人たちは腹を立て、隣のおばあさんを責め立てようと乗り込みましたが 隣のおばあさんを始め、子どもたちも皆 前後不覚で、嘔吐して倒れている有様でした。
近所の人たちは苦情も何も言うことはできず、みんな引き上げて行きました。

二三日してから、ようやく全員が回復しました。

「そうか、米になりかかったところを慌てて食べたものだから、あんなことになったんだね」

隣のおばあさんはそう思い、残った瓢はしっかり腐らせてようと みんな吊るしておくことにしました。

そして数ヶ月後

「そろそろいい頃かね」

隣のおばあさんは、大きな桶を持って自分の部屋に入りました。
わくわくしながら歯のない口で耳まで笑うと、桶に中身を取り出しました。
すると、中からはアブやハチ、ムカデ、トカゲ、ヘビなどが飛び出し 目鼻かまわず顔に取り付きましたが、隣のおばあさんは痛みも何も気づきません。

「米が顔にかかったのだろう。ちょっと待て雀、少しづつでいいよ」

などと言う始末です。
他の7、8つの瓢からは、同じように毒虫のたぐいが出てきました。
子どもを刺し、食べ、隣のおばあさんもとうとう刺し殺してしまいました。
宇治拾遺物語―雀報恩の事(腰折れ雀)
あの雀たちは腰を折られたことを恨み、たくさんの虫を瓢に入れたのでした。

一方、良いおばあさんの家の雀は、もともと腰を折られて命を失おうというところを助けられ、カラスに食べられそうになったところを世話してもらったので、恩に感じたのです。

無闇に人をうらやんではいけないという話。


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