» 蛇性の婬(8/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

雨月物語

雨月物語

怪談物語をおさめた短編小説集「雨月物語
死してなお残る「信念」「執着」と
いったものが描かれています。

蛇性の婬(8/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

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「霊言あらたかな僧でさえも、あの大蛇を殺すことはできませんでした。
大蛇はきっと、私がどこへ隠れたとしても探し出されてしまうことでしょう。
私の命一つのことで、これ以上人々を苦しめるわけには参りません。
もう誰とも相談いたしませんので、どうかご安心ください」

こういって、覚悟を決めた豊雄は寝間へと行こうとします。
庄司の人々は「気でも狂われたか!」と彼を引きとめようとしましたが、豊雄はその制止の声も聞かずに大蛇のもとへと行ってしまいました。

寝所へ入ると、そこには真女児とまろやが向かい合って座っておりました。
姿はやはり…富子のままでしたが。

そして彼女は豊雄への恨み言を口にしました。

「あなたは何の怨みがあって私を捉えようと人々に相談なさるのですか?
これからもこのように、私に仇をなさるというのでしたら、今度はあなたのお身の上だけの話ではありませぬ。
この里の人々も、すべて辛い目にあわせましょう。
あなたは私のあなたを一途にを想うこころを嬉しいと思って、ほかに対して浮ついた気持ちを持たないでくださいな」

豊雄はすでに悪びれもなく、彼女に答えました。

「”人には虎を害する心がなくても、虎には人を害する心がある”ということわざがある。
おまえはその人ならざる執念深き心から私に付きまとって何度か私を恐ろしい目に合わせた。
そして今も、そうやってかりそめの言葉だとしても恐ろしい復讐を口にするのは… なんともひどい話ではないか。

……だが、お前が私を慕う心は、ほかの人と何ら変わりがないと私は思う。

だから、お前の気持ちに応えよう。
…ただ、ここにいると周りの人々の嘆きが痛ましく、胸を締め付けられるようだ。
どうかその富子の命は助けてやってくれ。
その上で、私のことはどこへでも連れて行くといい」

それを聞くと、真女児はとても嬉しそうにに頷きました。

部屋を出ると豊雄は迷惑をかけてしまった自分のことを離別してくれるようにと庄司に頼みに行きました。

「私がここにいては人々を苦しめることとなります。今離別していただければ、富子どのの命も無事でしょう」

しかし、庄司はこれを承知することはなく、すぐに次の対策を考えたのです。

庄司は小松原の道成寺… いまの和歌山県日高郡川辺町にいる法海和尚に助けを請いました。
道成寺までの道のりは遠いものでしたが、庄司は馬に乗り、夜半ごろにようやく寺にたどり着きました。

「なんと、それは情けないことだ… わしも今は老いぼれて、祈祷の力は衰えてしまったがあなたの家の災難を見過ごすようなことはできぬ。 先におかえりあれ、すぐにわしもそちらに向かおう」

和尚もまた、すぐにこのことを承諾し、芥子(けし)の匂いの染み込んだ袈裟を庄司へ与え、こう教えました。

「その妖怪の頭にこの袈裟を被せて押さえつけなさい。その時に、うんと力を出して抑えつけなさい。力が弱いと逃げ出してしまいますから、よく仏を念じてやるようにな」

庄司は喜び、再び馬を飛ばして帰って行きました。

屋敷にもどると庄司はひっそりと豊雄を呼び、計画を話してから袈裟を豊雄に渡して実行するようにといいます。
豊雄は袈裟を受け取り、寝間へ入ると豊雄は真女児にこう話しかけました。

「庄司殿がとうとう暇をくださりました。…さぁ、こちらにおいで—— …一緒にこの屋敷を出ていこう」

その言葉に真女児は喜び彼のそばへ近寄ってきます。
真女児がそばにやってくると、豊雄はすぐに彼女の頭へとあの袈裟を被せて押し倒しました。

そして、真女児はこう叫びました。

「あぁ、苦しい!
あなたはどうして、こうまで私に釣れない仕打ちをなさる!
その手を少し、緩めてくだされっ」

それでもなお、豊雄は力に任せて彼女を押さえつけ続けました。

そこへ、法海和尚が到着したのです。

法海は庄司の家の人々に手を貸してもらいながら、豊雄たちのいる寝間へとやってきました。
和尚がすぐに呪文を唱えながら豊雄を退かせて、倒れている彼女にかかっている袈裟を取り払います。

するとそこには付している富子と…… その背中に、三尺ほどの白い蛇がとぐろを巻いて動かずにじっとしているではありませんか。

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法海和尚はその蛇を捕まえて、弟子がもってきた鉄製の鉢の中へと放り込みました。

さらの念仏を唱えると、屏風の後ろからちょろりともう一匹、一尺ほどの小さな蛇が出てきました。
和尚はこれもすぐに捕まえて同じ鉢へといれ、先ほどの袈裟で丁寧に包み、人々が手を合わせて涙を流しながらありがたがり和尚を尊んでいる中を去っていったのでした。

法海和尚が鉢をお寺に持って帰ったあと。

和尚はお堂の前に深く深く穴を掘らせました。そこに鉄鉢をそのまま埋めて法力によって永遠に世に出ることを禁じましたのです。

お寺にはいまでも大蛇の塚が存在するそうです。

その後、富子は病気になり死んでしまいましたが、豊雄は命を全うしたと語り継がれているそうです。

おしまい

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「蛇性の淫」登場人物

<豊雄>
とよお。主人公。仕事をしていない風流人で、父・竹助の計らいで自由に暮らしていた。
<真女児>
まなご。ヒロイン。ある雨の日に豊雄が出会った美しい女性。
<まろや>
真女児のお供をしている少女。
<富子>
一連の騒動の後、豊雄と夫婦になった、朝廷後宮の女官だった大変優雅な女性。
<庄司>
芝の庄司。富子の父親。
<法海和尚>
庄司が助けを求めた僧。

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