» 蛇性の淫(4/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

雨月物語

雨月物語

怪談物語をおさめた短編小説集「雨月物語
死してなお残る「信念」「執着」と
いったものが描かれています。

蛇性の淫(4/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

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 武士たちとともに豊雄は真女児の屋敷へと向かうこととなりました。
 引っ立てられながら真女児の屋敷へとやってきた豊雄は、その屋敷を見て愕然としました。

 立派だった門は柱さえも朽ち果てて、屋敷の軒の瓦はそのほとんどが砕け落ちて散らばっています。
 あちこちにはしのぶ草が生えさかっており、とてもじゃありませんが人が住んでいるとは思えないありさまだったのです。

 こんな屋敷に人が住むはずがないと、武士たちも驚き呆れ、周囲に住んでいる人々にこの屋敷について尋ねました。

「この家には誰が住んでいた?県の某の妻がいるというのは本当か」
「いえ…そのような名前は聞いたことがございません。たしかに、三年くらい前には…村主の某という人が住んでおりました。
しかし、九州へ荷を届ける舟が行方不明になってからは人々も散り散りになってしまい…県という名前ではございませんね。
そこへ先日、その男が入り、しばらくして帰っていったのは見かけまして、不思議なこともあるものだと話していたところでございます」

 と、鍛冶屋の老人が答えます。
 その後、武士たちはきちんと中を確認して報告しようと屋敷の門を開き中へと足を踏み入れました。

 屋敷の池には水がなく、水草もみな枯れて荒れ果てておりました。
 まるで荒野のように生い茂った薮草のなかにおおきな松の木がなぎ倒されているほどで、その様子は凄まじかったといいます。

 客座敷の扉をあけると、奥から生臭い風が吹き出してきます。
 その風に恐ろしさを感じ後ろに退きましたが、豊雄は驚きのあまりに声を出すこともなくため息をつくばかり。

 一際度胸のある武士が先頭をずんずんと進んでいくと、塵が一寸(およそ三センチ)ほど積り、ネズミの糞さえも散っているような中で古い帳がたっておりました。
 そしてその陰にひとりのあでやかな女性が座っているのを彼らは見つけました。

 武士の一人が女性へ「国司がお召である。急ぎ出でよ」と声をかけましたが、返事はありません。
 そして近寄って彼女を捉えようとした、その時です。

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 大地が割るかのような轟音… 雷鳴があたりに轟き、人々は逃げるまもなくその場に倒れてしまいました。

 しばらくして、はっと意識を取り戻した彼らがあたりを探しても、女性の姿はどこにもありません。

 かわりに、彼女が座っていたあたりにはきらきらと光るものがありました。
 おそるおそる近寄って見てみて、これらを持ち帰って報告しました。
 高麗錦(こまにしき)、呉(ご)の綾織(あやおり)、倭文織(しずおり)、固織(かたおり)などの高価な布地や楯(たて)、鉾(ほこ)、靫(ゆき:矢を入れて背負う装具のひとつ)といった兵器に大鍬…… そこにはすべてのなくなった神宝があったのです。

 今回の事件が妖怪のしわざであったということが分かり、豊雄への追及はゆるめられました。

 ですが、豊雄は盗まれたものをもっていたという罪に問われ、入牢することになったのです。

 家族が多額の金品を送ることで罪を軽くしてもらうように願ったために、百日ほどの入牢の後に許されました。
 豊雄はほとぼりをさますため、二番目の姉の嫁ぎ先である大和の石榴市(つばいち)……今で言う奈良県の三輪付近の商人、田辺の金忠(かねただ)のもとへと身を寄せることとしました。父も兄もそのことに同意し、豊雄を見送ります。

「こんなひどい目にあったのだ。しばらくは向こうでゆっくりと暮らすといい」

 こうして、豊雄は紀伊国三輪が崎から離れて、石榴市の方へと訪ねて行ったのでした。

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「蛇性の淫」登場人物

<豊雄>
とよお。主人公。仕事をしていない風流人で、父・竹助の計らいで自由に暮らしていた。
<真女児>
まなご。ヒロイン。ある雨の日に豊雄が出会った美しい女性。
<金忠>
田辺の金忠(かねただ)。豊雄の姉が嫁いだ商人。

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