» 蛇性の婬(6/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

雨月物語

雨月物語

怪談物語をおさめた短編小説集「雨月物語
死してなお残る「信念」「執着」と
いったものが描かれています。

蛇性の婬(6/8)「雨月物語-1768~1776年刊 著者:上田秋成 -」

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初めてのお床入りの夜。
真女児は慎ましく、そしておしとやかでした。

先に豊雄が床についてからまもなく、真女児は左のほうからそろそろと静かに入ってきて、背を向けたまま息を殺していました。
豊雄はそんな真女児の様子の、肩から胸にかけての成熟した女性らしい曲線を感じました。

自然と、豊雄の口からはこんな言葉がこぼれ落ちます。

「私は… 私は、あなたを一目みたときから…… あなたが忘れられない人となった。
今、あなたとこうしているなんて、私には未だに信じられない。

さぁ、どうか… あなたのお顔を見せておくれ」

豊雄は腹ばいとなって右腕をのばし、真女児を抱き抱えます。
彼女もそろりと豊雄の方へ顔を向けて消え入るような声でささやきました。

「お願い、明かりを消して――」

豊雄はむしろこのまま明かりをつけておきたくなりましたし、今から床を離れて灯火を消しに行くのはいやでした。

「このままでもよかろうに――」

と豊雄はいいますが、彼女はふるりと首を振ります。

「あなた、お願い… 言うとおりにして――」

こうまで言われ、そこまで恥ずかしがるものなのかと思いながらも豊雄は灯火を消しに行きました。そして、再び床に就くやいなや豊雄は真女児のことをぐいと抱きしめて、彼女の唇に自身の唇を重ねていったのです。

豊雄が二度、三度とやわらかな唇を強く吸うと、次第に真女児のほうからも吸い返してきました。いつしか自然と、真女児の両腕は豊雄の胸をしっかりと抑えています。

…それから、二人にとっては長く短い時間が過ぎました。

豊雄の右手は次第に彼女の、真女児の下着の重ねを割ってするりと入り込み、ひたりとその肌に張り付いておりました。それにしたって、彼女の肌のなんという柔らかさでしょう。すべすべとしていて、手に心地よく、そしてしなやかな肌です。

と、そう豊雄が感じるのも束の間、今度は真女児の方から豊雄へと足を絡ませてきたのです。豊雄もそれに答えるように肢体をくねらせ、離すまいとします。

このことは豊雄の行動よことさら大胆なものにしました。女芯を求めて、豊雄は愛の所作を繰り返し繰り返し…… そして炎となって燃え尽きるまで辞めることはありませんでした。そして豊雄はその体で知ったのです。彼女が身を固くし、呻きとともにその体を反り返らせるのを――。

その夜、豊雄はぐっすりと眠りました。夢さえ見ることもありません。真女児とともにいることで、安堵を感じていました。
目が覚めた時には真女児はすでに姿がありませんでしたが、豊雄は目だけで彼女を探していました。その時、「おめざめになりまして」と声をかけながら彼女が部屋へと入ってきたのです。そして視線を移して真女児の顔を見たとたん、豊雄はぞくりとしました。

――なんという美しさ。これが私の妻なのか。

朝日を受ける彼女はまるで輝いてみえたのです。思わず、豊雄はこうもらさずにはいられませんでした。

「あなたは本当に綺麗だ、天はどのようにあなたのような人をお作りになられたのか」

真砂はただ、黙って微笑みました。
それがまた富雄にとっては艶かしく見えたのでした。

それから、夫婦としての二人の生活が始まりました。
蛇性の婬

豊雄も日が経つにつれて真女児への恐怖や警戒もうすれ、すっかりと心が解けました。
もともと彼女に惹かれていたこともあり毎夜毎夜二人の愛情も細やかなものとなり、彼女といつまでも変わらぬ愛を交わしあったのです。

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「蛇性の淫」登場人物

<豊雄>
とよお。主人公。仕事をしていない風流人で、父・竹助の計らいで自由に暮らしていた。

<真女児>
まなご。ヒロイン。ある雨の日に豊雄が出会った美しい女性。

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