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近代の物語

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蟹淵と安長姫

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むかし、むかしのこと。隠岐島の元屋という村に丹治という樵がおりました。

ある日、丹治は安長川の奥に入り、滝の後の山で木を切っていると、なにやら音が聞こえてきました。
岩を叩く様なその音は、次第に大きく、様々な方から聞こえてくるようになりました。
その音に驚いた丹治は、誤って深い滝壺の丸い淵へと斧を落としてしまいました。
するとたちまち、淵に波が起こり水煙がたち、あたり一面真っ暗になりました。
そして、水の中からは黒くトゲの生えたかたまりが浮かび上がってきます。
丹治はすっかり怯え、その場から逃げようとすると、どこからか美しい女の声が聞こえてきました。

「そこの爺よ、怖がらないで。少しお待ちください。」

丹治が振り返ってみると、そこには絵のように美しく若い姫君が滝のそばに立っておりました。
姫は丹治が先ほど落とした斧を持っており、丹治にそれを手渡しながらこう言いました。

「私は安長姫と申します。昔からこの淵に住んでいる者ですが、いつの頃からか、この川に大きな蟹が住み着くようになって、川を荒らすようになり、私はそれに昼も夜も苦しめられておりました。
先ほどあなたがこの斧を投げてくれたおかげで、その蟹は片腕を落とされ弱っています。その御礼を言いたいのですが、未だもう片方の腕が残っていて安心できません。
どうかもう一度この斧を投げて蟹を退治してください。」

蟹淵と安長姫

丹治は怯えながらも、この美しい水の神様をお助け申し上げたいと思い、再び元の山へ戻りました。
そして大蟹が現れるのを待っていると、水面が波打ちました。

来た、と思った丹治は斧を構えます。しかし、大蟹は残る片腕で丹治の立っている足場の付近を大きく叩き始めました。
ぐらぐらと山はゆれ、丹治も落ちてしまいそうになります。
その時、斜面の上から大岩が落ちてきて、大蟹にぶつかっていきました。
丹治はその瞬間、持っていた斧を大蟹に向かって投げました。大蟹は動かなくなり、そのまま水の中へ沈んでいきました。

丹治が山を降りると安長姫が現れ、大喜びで、

「大変ありがとうございました。これで大蟹を退治することができました。これからは何なりとあなたの願いを聞きましょう。」

といい、丹治は

「では、これからは村が干ばつで困らないよう、十分に水をおつかわしください。」

と望むと、安長姫は承知しました。と、林の中へ帰っていきました。

後日、海に両腕のない大きな蟹の死骸が上がっているのを村人が発見し、丹治が言っていたことは本当だったのだと言いました。
それから村では、その川を安長川、滝壺を蟹淵と呼ぶようになりました。
川は旱の年でも水が絶えず、村は水に困らなくなりました。
日照りが続いたときに滝のそばで安長姫に雨乞いをすると、必ず雨が降ったということです。


「蟹淵と安長姫」登場人物

<丹治>
元屋の村人。年老いた樵。
<安長姫>
安長川の淵に棲む美しい女神。
<大蟹>
巨大な化け蟹。ある時より安長川の淵を荒らし始める。

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