» 鬼の舌震「出雲国風土記」

日本神話

日本神話

日本各国の風土記やアイヌ神話、
神社の社伝など古事記や日本書紀では
語られていない日本神話
御紹介致します。

鬼の舌震「出雲国風土記」

  • 登場人物
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
5/5 (1)

そのむかし、阿伊の村に玉日女命(タマヒメノミコト)という美しい女神がおりました。
滝のように流れる豊かな黒髪。
黒雲母を砕いたような大きな瞳。
ぽってりとした肉厚の唇は、まるで秋に染まる紅葉のように赤く艶めいておりました。

その女神に、一匹の和邇(ワニ)が想いを寄せました。
和邇とは、現代でいう鮫のことを指します。海神(ワダツミ)の使い、或いは海神自身だともいわれております。

さて、女神に恋した和邇は川を遡り、大海原より遥々と深い山奥を目指して上って行きました。
しかし、女神は和邇が自分へ会いに来たと知ると、巨大な岩で川を堰き止めてしまいました。
行く手を阻まれた和邇は、聳(そび)える岩の堰に為す術もありません。

「美しいひと、慕わしいひと。どうか、その岩を退けて、一目で良いからわたしに会っておくれ」
鬼の舌震
和邇は切々と恋心を吐露しました。けれど女神は姿を隠したまま、どれだけ呼び掛けても彼に眼差しのひとつ、言葉のひとつすら掛けてはくれません。
女神が彼に与えるのは「沈黙」と「拒絶」ばかり。そして、それが彼女の答えなのでした。

「酷いひとだ、憎いひとだ。それでも……」

女神に会うことも出来ず、ただただ彼女を恋い慕いながら、和邇は大海原へと帰って行きました。報われぬ想いを嘆きながら。

「恋しい、恋しい、こいしい」

和邇が女神を慕って上った山を、人々は「恋山(したいやま)」と呼ぶようになりました。

島根県仁多郡奥出雲町に、「鬼の舌震」と呼ばれる渓谷がある。
その名を『出雲国風土記』は、美しい山の女神に恋した一匹の和邇の悲恋に由ると伝えている。

わにのしたぶる――和邇の慕ぶる、が訛って「おにのしたぶるい」と呼ばれるようになったそうだ。

現在、鬼の舌震は出雲有数の観光地となっている。
巨大な奇岩が折り重なり、清流を阻むその光景は、和邇の想いを拒んだ、いにしえの女神の情の強さを彷彿とさせる。


「鬼の舌震」登場人物

<玉日女命>
阿伊の村に住む美しい女神。

<和邇>
玉日女命に恋した和邇(現代でいう鮫)。

お話の評価

ページトップ