気比大神「古事記 -712年献上 作者:太安万侶 -」
忍熊王との戦いを終え、建内宿禰は、皇太子を連れて禊をしようと考えられた。
そこで、淡海や若狭国を巡った折、越前国の敦賀(つるが)に仮宮を造らせた。
すると、この地に坐す伊奢沙和気大神(いざさわけのおおかみ)が夢に立たれて、
「わたしの名を、御子の御名に変えたい」
と、仰せになった。これは神託である。
「畏れ入りました。仰せの通りに、御名を頂いて名を変えましょう」
宿禰はその神を言祝いで、そのようにお答えした。
すると、大神は大変喜んで、さらにお言葉を告げられた。
「明日の朝、浜に行くと良い。名を変えた証として、御子へ贈り物を差し上げよう」
翌朝、言葉通りに皇太子が浜にお出ましになると、鼻の傷ついた海豚が、浦いっぱいに寄り集まっていた。
それをご覧になった御子は、幼い目をまんまるにして「わっ!」と声を上げた。
「見よ。神が、わたしに御食(みけ)の魚を与えて下さった!」
それで、その神の御名を称えて、御食津大神(みけつおおかみ)と名づけた。
現在、福井県敦賀市の気比神社に祀られている神――気比大神が、これである。
また、その傷ついた海豚の鼻の血が臭かったので、その浦を「血浦」と言った。
今は角鹿(つぬが)と呼ばれている。
「気比大神」登場人物
<登場人物>
<気比大神>
敦賀に住まう神。夢に立ち、幼い応神天皇に名前を交換したいと申し出る。<建内宿禰>
神功皇后に仕えた大臣。その御子である、応神天皇にも仕えた。<品陀和気命>
皇太子。後の応神天皇。